五射六科
古来の射手が習得するべき弓道の弓射の実技、及び教養について、弓道中興の祖、と言われる江戸時代・大和流開祖の森川香山先生は、以下の五射六科を定め、各流派でバラバラだった弓術を体系化し日本を表す大和流として、初めてこの弓術の体系を「弓道」という言葉を用いてまとめました。
特に、現在の弓道シーンにおいて、全国津々浦々まで浸透している近的(小的前)が、古代から脈々と続く古い弓の歴史において、やっと17世紀の天下泰平の江戸時代に登場したのは、興味深い歴史的背景です。
近的(小的前)は、研究論文「弓道の中の弓術について(稲垣源四郎著)」によると、「15間(28メートル)の距離で、1尺2寸(36センチメートル)直径の的を射る射法は、古来より歩射として、戦場に敵を迎え、敵味方の槍の長さから自然と定まった13間から15間の距離で外せば敵に射られ、中てれば生還するというギリギリの場で生死を超えた的中を修行目標としてきた射法」と説明されています。
五射
1.巻藁前
2.小的前(近的のこと)
3.要前(ようまえ 日置流では敵前[てきまえ]。鎧兜を射抜く程の貫通力のある射法)
4.指矢前(さしやまえ 差矢前とも。日置流印西派では数矢前かずやまえ。遠方の敵を牽制する遠距離射法。江戸時代行われた堂射も、ここに分類される)
5.遠矢前(とおやまえ 敵に包囲された時などに、陣外の味方に矢文を届ける為等、できる限り遠くに矢を射る射法)
六科
1.弓理:射技・射術の理論を知ること
2.弓礼:人前で弓を射るとき、失礼のない座射進退を身に着けること。歩射では、ごく一般の礼儀・礼式以外は礼家に聞けとされている
3.弓法:弓の取り扱い方(他の人との弓の受け渡し等)、上位の人と行き会うとき、歩行、馬上の際の弓矢の持ち方、扱い等
4.弓器:弓具の種類に精通する事(用途、用法を誤らないようにし、射術の修業に役立てる為)
5・弓巧:弓矢の細工・修理・性能をよく知るとともに、そのための各種道具を扱えるようにする事。射手村を一通り習得することが望ましい
※射手村・・・ゆみの勢(成なり)、形、出木入木、勢の強弱、その修正法、および張り方、削り方、装束(弓に籐などを巻くこと)、塗り方を一通り習得する事
6.丹心(練心):日夜のたゆまぬ修行、いくたの試合経験などの修行者の覚悟のひとつ。かならず弓道は弓の道としての心の在り方を教えてくれる
宮田純治が成し遂げてきた弓道弓術における実績、及びミヤタの弓が生まれた背景は、この五射六科も背景にあり、五射六科について説明致しました。詳しく知りたい方は、本ブログ記事の参考文献他、「平瀬光雄弓道論集」等、弓道関係の文献で確認できますので、ぜひご覧ください。
(出典)
・「日置當流射法 歩射射術の実際」範士九段 早稲田大学・筑波大学弓道部師範 稲垣源四郎著
・研究論文「弓道の中の弓術について」 稲垣源四郎著)