弓の性能と耐久性の関係

浦上栄先生の著書「紅葉重ね・離れの時機・弓具の見方と扱い方」(弓道範士十段 浦上栄 著 浦上直・浦上博子 校注)の「弓具の見方と扱い方 第五節 弓の性能」の説明によると、鋭い反発力と矢飛びの良い弓と、丈夫な弓は両立しない、つまり耐久性の高さと、性能の良さ、は物理的な特性の視点からどうしても相反の関係にある、と説明されています。この本は全て伝統弓具の竹弓、竹矢、麻弦についてのみ説明されていますが、これはどういうことなのでしょうか。

この本に詳細な説明がありますが、竹弓の場合について、性能の観点からは、竹・側木の重量が軽く弓全体の自重(弓自体の重量のことで、弓力の強弱ではない)が軽くしなやかな弓は、弾性が高く、その弾性・反発力から矢勢もよく冴えのある射が特徴になります。弓の自重が重く固い素材のものは、相対的に弾性が低く、矢勢等は前者より落ちてしまいます。

耐久性の観点からは、弓は、引くたびに弓に圧力がかかり、竹が縮み、特に内竹が大きく縮むことになり、弓を引いて離れるだけで弓に大きな負荷がかかります。矢束の長い人が、伸の長い弓を使うのも、その耐久性の観点からになります。弓の自重軽くしなやかな弓はその弾性の高さから、悪い射が出た時などには、その振動の振幅も大きくなり弓にいくダメージが大きくなり、弓の自重重く固い弓は、それらの衝撃に対する耐性も高い点が長所になります。

これらは、古来より伝えられている弓の個性の相反関係について説明されており、どちらが良いのか、という話ではなく、それぞれの弓の特徴をよく知ったうえで、使いこなす事が重要になります。古来、堂射では矢勢等の性能重視で、五寸詰のような短い弓を用い張力・反発力を高め矢勢を良くしていました。一方で、弓の自重が重く固い弓は、力強く重く貫通力の高い射が出る為か、五射六科の要前(ようまえ日置流では敵前[てきまえ])で、鎧兜を射抜くかたものの射抜きに使われた、とも聞いています。

グラスカーボン弓は一般的に丈夫と言われますが、それは内竹・外竹にグラスファイバー・カーボンファイバーで強化されたFRPを使用し、弓射の曲げ圧力による素材の縮みに対して強く、上記の課題に対してこうがいおき、首折等のリスクを軽減していることにあります。しかし、特性は芯材にもあり、弊社製品の当社比の話では、以前昭和47年頃からミヤタでスキー工場の製作協力を得て過去に製作していた機械生産方式のグラスカーボンFRP弓は、安定して多数製作する為に固い芯材を使用していた為弓の自重が重く、相対的に弾性も低めであることで離れの振動が強い側面がありましたが、さらに耐久性が高く、硬質な弦をかけても、弓把が多少低めでも、またなんらかの悪射がでても素材の固さや弾性特性から、破損するリスクがさらに低い性質がありました。現在では、弊社はしなやかな素材を使い、弾性高く矢勢の良い弓を志向し、手作りのグラスカーボンFRP弓のみに回帰し、製作しております。グラスカーボンFRP特性の耐久性の高さはございますが、やはり長くご利用いただくためにも、上記の弓の特性を知りご利用になっていただくのが良いかと思います。グラスカーボン弓に使用される縦方向に繊維で強化されたロービングのFRPは、横方向の傷に弱く、やはり特性を知り丁寧に取り扱い頂き、大事にご利用いただくことが基本になります。

弓道用の和弓は古来より、弓手起点で離れ、十分鋭い弓返りすることで前方より弦が矢を引っ張り弓に余計な振動を伝えず、その力を余すところなく矢に乗せることが出来て、弓具を傷めずにひけるという、弓射との関係が前提に弓が設計・製作されております。この物理的な特性は、アーチェリーの弓射・弓具と比較すると、非常によくわかります。アーチェリーは馬手で離すことで弓にいく衝撃・振動を、スタビライザーとその先につけられるゴム等のダンパーで振動を吸収しています。また、金属製のハンドル自体が、振動吸収効果があるようです。和弓では、当然これらの装置の設置は認められておりません。

つまり、馬手離れで矢を放つと、程度の差はありますが弓に衝撃を与えることになり、そのような弓射を前提としてない弓道用の和弓は、弓手起点の射を習得することが、弓の破損を避け、長く大事に使う為に重要なポイントになります。

しかし、弓手起点の離れを習得する事は、一般的には正しい弓射の稽古を長年積み重ねる必要がり、また上級の射手でも時には悪い射もでるもので、なかなか難しい問題になります。ただ、弓単独の話だけではなく弦の選択も弓の耐久性に影響する為、弦の選択が重要になります。アーチェリーでは、弦も馬手離れの衝撃で切れないレベルの硬質で太い弦が使用されていますが、和弓はそもそもの弓射の性質と弓具の構造が異なります。このように、これらの特性は、使用する弦とも関係が深く、「弦と弓把について」についての記事も、あわせてご高覧頂けますと幸いです。

(出典)「紅葉重ね・離れの時機・弓具の見方と扱い方」(弓道範士十段 浦上栄 著 浦上直・浦上博子 校注)