和弓の馬手離れとアーチェリーのアーチャーズパラドックスについて

アーチェリーでは、矢をつがえている馬手ではなす(リリースする)ことが弓射の基本であるのに、和弓ではどうして馬手離れが問題となるのでしょうか。

それは、アーチェリー、弓道の射法と弓具を比較してみることで、よくわかります。特に、前回紹介した「射流し」で竹矢の遠矢で馬手離れとなると、発射の衝撃と矢の蛇行が風圧に耐えられず竹矢がバラバラに空中分解する、という事実でより鮮明にその現象が説明されます。

馬手離れ(リリース)で矢を放つと、矢が蛇行して進むことが、「アーチェリーでは弓本体に矢羽根等が接触せずにトラブルを起こさず矢が飛ぶ」という実態から、「本来望ましくない馬手離れの矢の蛇行は必要悪のパラドックス」、ということで「アーチャーズパラドックス」と呼ばれます。

一方で弓道の場合は、短いアーチェリーの矢と異なり、矢が90㎝~100cm前後と非常に長尺になるので、馬手離れの蛇行運動による振幅が大きく、あっという間に矢のバランスが大きく崩れてしまいます。それが遠的等では更に顕著にでてしまい、矢が細く軽く、弓が強くなるほどそれが顕著になりまともに矢が飛ばないことがあります。その観点からも、伝統の弓射において、弓手起点の角見を利かせた射法が発展してきました。

宮田純治は、弓道指導において、紙を使って以下のようなイメージで、馬手離れと弓手起点の離れの違いを、説明しています。馬手離れは、矢の後方から押し出す力のみが加わる為に、矢はその衝撃で、写真のような蛇行現象が起きます。一方で弓手起点の離れは、弓手側の弓返りの引力が加わり、矢が真っ直ぐ飛ぶような射法となっている説明をしています。

馬手離れ

弓手起点の離れ

以下のアーチェリーのアーチャーズパラドックス現象を映像をみると、馬手離れで矢がどのように飛ぶのか、アーチャーズパラドックスとは何か、直観的な理解を得られます。

アーチャーズパラドックス現象

アーチャーズパラドックスの詳しい説明については、以下のブログの説明が非常にわかりやすいので、ご一読されることをお勧めします。

アーチャーズパラドックスとは?

https://www.a-rchery.com/paradox.htm

上記ブログで説明されるように、カーボン矢は、その素材特性で振動吸収性が非常に優れており、矢が放たれると即座に振動を吸収し真っ直ぐ飛ぶために、必要なアーチャーズパラドックス現象が起こらずレスト(矢を乗せる土台)部分でトラブルがおき、矢の方向性が失われてしまう為、弓具のチューニングが難しくなったようです。

上記カーボン矢の特性は和弓でも起こり、馬手離れで放たれても、カーボン矢の振動吸収性の高さ、反発力の強さ、復元力の高さにより、真っ直ぐ飛びやすくなります。カーボン矢は、非常に性能の優れた矢でありますが、弓道の射法・射術の観点からは、やはりジュラルミン矢、竹矢等も併用しながら、矢の飛び方をみて、馬手離れの具合をチェックしながら射の振り返りをすることをおすすめします。

弓道に入門すると、「矢をつがえずに弓を引くと、弓を破損することがあるからしてはいけない」と教わりますが、これは矢をつがえないと、弓をひき弦に加えられた力が乗り移る先の矢が無い為に、弓に衝撃が加わり破損する場合がある為です。矢をつがえていても、知らずに馬手で矢を押し出してしまい、空筈状態になっても、同様の現象が起こります。

実は、馬手離れも程度の差はありますが、同じタイプの現象が起こります。矢に十分な力が乗らず、弓の矛先から弓に衝撃が伝わり、麻弦等の柔らかな弦だと、弦が切れる場合があります。ただし、弦切れ自体は弓具保護の観点からは悪いことではなく、必要以上の衝撃から弓を守ることができます。これが非常に硬質な弦だと、その衝撃が起きた時に弦が切れず、弓に大きなダメージを与えることがあります。

鋭い角見をきかせて正しい引き方ができれば、伝統の射法は標準的な弦で十分な矢勢がでますので、弊社の弓をお使いの場合、麻弦や昔ながらの合成繊維の弦で、標準的な太さ・硬さの弦をお使いになることをお勧めします。

矢についても、いずれにせよ長尺の矢は、まっすぐ鋭く飛ばす為には、あくまで基本の弓手起点の離れを目指すことであり、矢を自身の矢束に近く短く切り詰めることは安全上大きな問題になるので、矢は自分の矢束から、十分な余裕を持った長さで製作したものをお使いになることをお勧めします。

上記ブログのリンクは、PRO Select Project (a-rchery.com)の管理人様の許諾を頂いた上で、リンクを貼らせて頂いております。リンク貼付のご快諾頂き、誠にありがとうございました。