World Archery Championships 1967に向けた弓具研究② 弓

「遠的における和弓弓具研究の一端として」のレポートで、以下の弓の実際に使用しその特徴をまとめ、World Archery Championshipsに適しているのはどういう性質・性能の弓なのか、宮田純治は徹底的に研究しました。

<使用弓具>

弓 (当時は竹弓のみ)

・数量:40張

・弓長:並寸(7尺3寸)~7寸詰(6尺6寸)まで (一部二寸伸も試用)

・弓力:18㎏~31㎏まで

求められる要件は、主に以下の3つになります。

①矢勢と的中:30mから最長90mまで飛ばし、かつ可能な限り的の中心を狙う必要がある

②対候性:雨天・多湿の環境下でも、道具の性能・性質が変わらない必要がある

③安定性・一様性:同じように引けた時に、同じようなパフォーマンスを発揮する必要がある

①の矢勢と的中の観点からは、堂射の伝統が示す通り、弓長を切り詰めた五寸詰のような短い弓は、低い弾道で非常に遠くまで飛ぶ事がわかりましたが、的に届いても矢所が集まらず、アーチェリールールで的の中心に矢所を集める観点からは、90mまで飛ばす場合、並寸~三寸詰が最適のバランスであると判断しました。それ以上の弓長でも一応試したところ、同じ弓力でも、的の直前で落下する場合多く長くても短すぎても使用が難しいと判断しました。弓力は30㎏以上であれば90mまで飛ぶものの、これも的に当たっても矢所が集まらず、大きな壁に当たりました。90mの距離では宮田純治が射こなす弓力としては、23~25㎏が、的中を意識した適正の弓力と判断してましたが、90mの距離では特に、竹弓のままではその弓力では矢勢が足りませんでした。30m、50m、70m、90mそれぞれの距離において、弓力は強すぎないもので、更に矢勢を増す工夫をしなければならない課題にあたりました。

②の対候性の観点では、雨天多湿の環境でも試合が続行されるアーチェリー競技においては、竹弓は竹と木で製作された自然のものである為に、寒暖乾湿の影響を大きく受ける為、非常に大きな問題となりました。使用した弓の多くは当時既に主流となっていた合成接着剤で製作された竹弓でしたが、伝統の接着剤であるニベで製作された竹弓は更に矢勢・的中が良いと感じていたものの、寒暖の差でゾル化/ゲル化と流動性があるその性質から、高温多湿の環境では使用できませんでした。いずれにせよ、竹弓は対候性の高い漆塗弓にするか、または撥水性のある塗料で弓をコーティングする必要性を感じました。

③安定性・一様性の観点からは、②と関連しますが、低温の早朝と日中の高温では、竹弓の弓力が変化してしまい一様の矢勢・的中を得られず、多数の矢数をかけねばならない中、弓の疲労が早い事も難点となりました。また、当時はまだ化学繊維の弦が今ほど普及する前で、麻弦で引くと冴えがでるものの、耐久性がの観点で化学繊維の弦より切れやすい点も、竹弓の安定性・一様性を阻害する懸念材料となりました。強弓で多数の矢数をかける本大会において、弦切れが途中で起こると、竹弓の若返りが起こり、弓力・形状に変化がでてしまう恐れがありました。弦切れによる若返りそのものは、弓道においては竹弓の裏ぞりや弓力の復活などでよい効果もありますが、本大会では、弓具の変化による矢勢と的中の一様性の阻害要因として、大きな課題となりました。苦肉の策として、一様性を得る工夫として、建築材等で利用されていたデコラを内竹に張付け、大きな弓の変化をなるべく起こさない工夫をしてみましたが、デコラそのものはなんの反発力も無く、剝がれやすく、本大会への実用化には至りませんでした。

これらの①~③の課題をクリアする性能・性質を有する素材として、宮田純治はアーチェリーの弓で既に利用されていたグラスファイバーFRPに着目し、グラスファイバーFRPを使用した和弓の開発・試作をして、大会に臨むことになります。