西洋伝統の弓射・弓具と現代アーチェリーの関係にみる伝統弓道・弓具の将来
World Archery Championships 1967において、各国選手が使用していたアーチェリーの弓は、大半が既に米国製のグラスファイバーFRPのリムを使用した新型の弓で、矢もほぼ100%がジュラルミン矢と、既に新弓具がメインの大会でした。様々なメーカーから出ている製品で、本大会を制覇した弓の銘柄が、次の大会で主流となる、といった切磋琢磨がありました。この事実をみて宮田純治は、西洋の常により良いものを求める姿勢を感じました。
この大会に参加した宮田純治は、その西洋弓具の飛躍的な進化をみて、それではどういうものが現在のアーチェリーの洋弓の原型であったのか、そしてその伝統の西洋弓具の現在はどのような実情にあるのか、関心を持ちました。西洋において、狩猟・戦闘用としての西洋の弓矢が現在のスポーツとなったのは、16 世紀にイギリスの王ヘンリー8世が、アーチェリーのコンテストを開催したのがきっかけだったそうです。20世紀初頭までアーチェリーの世界も伝統弓具の木製の弓具で、イーストンも伝統の木製矢を製作していました。アーチェリーシャフトメーカーのイーストンは、現在の弓道の矢のジュラルミン矢・カーボン矢の箆としても大きなシェアを持っていますが、創業1922年で100年の歴史を持つイーストンは、伝統の西洋弓具において、和弓弓具の竹矢の矢師にあたる伝統の木製矢の製作技術を持ったメーカーで、技術革新を経て現在ではジュラルミン矢・カーボン矢のシャフト(箆)を製作しています。
アーチェリーの源流はイギリスにある、という話を以前より聞いていた宮田純治は、幸運にも大会会期前後にイギリスBBC放送日本部部長Tゲレット氏からインタビュー要請を受けており、また英国グランド・ナショナル・アーチェリー・ソサイエティ シニアコーチのDゴールド氏から渡英の招待を受け、日本伝統の和弓を紹介しつつ、英国伝統の弓術・弓具に触れる機会を得ました。
1967年8月、大会から数十日後にアーチェリー参加者・通訳の方のサポートを受けロンドンに渡り、BBCのインタビューを受け、さらにDゴールド氏の住居があるイングランド南端の港湾都市プール市(Poole)市で、西洋伝統弓術と日本伝統弓道のささやかな交流会・座談会を行いました。
イギリスBBC放送の依頼により、BBC放送局にてインタビューを受ける宮田純治
この時は伝統弓道・弓具について主にインタービューを受ける為、竹弓・竹矢を用いて日本の弓道弓具の説明をしました(宮田純治は当時弓道錬士六段)。
プール市(Poole)市では、プール市長や英国伝統弓術のブリティッシュ・ロングボウ・ソサイエティメンバーでロングボウチャンピオンのバート・オーラン氏も招待され、豪華な顔ぶれの中、宮田純治は弓道の演武を行い、またロングボウの演武をみせてもらい、お互いの弓矢を交換して試射も行いました。
交歓座談会を通して宮田純治が気づいたことは、西洋弓術は、スポーツ・コンテストという西洋の概念の基に進化してきており、ロングボウの伝統は、英国グランド・ナショナル・アーチェリー・ソサイエティーを通じてモダン・アーチェリーに引き継がれていることでした。つまり、西洋の伝統弓具・弓術は、まったく異なるように見える現代のアーチェリー弓具においても、地中海式射法、競技のルール、様々な事が脈々とつながり、モダンアーチェリーにも辿ることができる西洋弓術のルーツがある、ということでした。西洋の弓術・弓矢は、グラスファイバー・カーボンファイバーFRP製の弓、ジュラルミン矢、カーボン矢と変化としつつも、その中に伝統の性能・名残を残しながら、アーチェリーとして今も西洋弓術は残り、愛され続けています。
この事実をみて、この世界弓術大会の参加、渡英した際の西洋伝統弓術との交流を通じて、西洋弓術と日本伝統弓道の共通点や相違点を確認し、また自ら製作したグラスファイバーFRP製の和弓をはじめ、様々な新しい発見をした宮田純治は、古来の職業として弓を引く武士の時代から激変した現代の弓道の環境が抱える弓道弓具の課題について、宮田純治として取り組めることを、帰国後に着手していきます。
木製の西洋の伝統弓、「ロング・ボウ」と矢
写真は、西洋の伝統弓「ロング・ボウ」とその矢。今から150年以上前に製作されたもの。伝統を伝える素晴らしい弓矢であるが、1967年の時点で既にこの伝統の弓矢を製作できる職人は存在せず、新品を求めることは不可能でした。
アーチェリーの原型である西洋の伝統弓、「ロング・ボウ」と和弓の交流会
World Archery Championships 1967のエキシビションで、竹弓・竹矢で弓道の演武を行う宮田純治
本大会においても、宮田純治の和弓での参加により日本の弓道・和弓は現地で非常に関心を集め、宮田純治は本大会関係者から要請され、大会のエキシビションで竹弓・竹矢による弓道の演武も行っている。
余談になりますが、World Archery Championships 1967の優勝者は、アーチェリーにおける最後のノー・クリッカーチャンピオンと言われるレイ・ロジャース選手です。アーチェリーは、正確な矢束をとることが出来る装置クリッカーで飛躍的に的中が向上しましたが、そのクリッカー無しで世界大会で優勝したレイ・ロジャース選手は、アーチェリー史上でも特に重要な弓射技術を持った選手とのことです。
この矢束・引き矢尺については、洋の東西を問わず、弓の性能・矢勢を最大化し矢所を集める要素において、非常に重要なポイントであり、弓道はクリッカー無しの弓具で、弓射技術のみで正確な矢束をとらねばなりません。このアーチェリー弓具クリッカーの登場にみられるように、弓道においてもいかに一定以上の引き矢尺を引き、正確な矢束をとることが矢勢・的中に大事なことなのか、という説明は、別の機会にさせて頂きます。