World Archery Championships 1967に向けた弓具研究③ 矢、ゆがけ、弦

矢は、以下の矢を、ジュラルミン矢含め、矢師の曽根正康先生が製作してくださいました。

竹矢(一文字、麦粒、竹林[堂射用の矢]:曽根正康作)

ジュラルミン矢(シャフト:イーストン製)

当時イーストン製のシャフトのジュラルミン矢は、アーチェリーの弓具として既に普及していたものの、弓道用のジュラルミン矢は一般的ではありませんでした。そこで、弓道用の長さに切ったものを、鳥の羽をつけ、弓道用の筈、矢尻をつけたものを曽根先生が製作してくださいました。

矢については、飛距離が出るように製作された麦粒、竹林矢はよく飛ぶ反面、的中の矢所の集まりについては一文字が最もよく、やはり弓と同様に飛距離と的中の相反関係がありました。

飛距離については、流線形に矢筈側になだらかに太くなっている箆の竹林矢が非常に優れており、上手く引けると非常に矢勢がでました。竹林矢は射の巧拙で飛び方が大きく変わり技術を要し、どちらにしても、一文字に比べると的中の矢所の集まりは荒れてしまうことがわかりました。

曽根先生が製作する竹矢は当代の非常に優れた矢でありましたが、World Archery Championshipsに使用する矢、という観点から、ジュラルミン素材で飛距離に優れ、かつ的中の矢所の集まりがよい一文字の形、さらに雨天でも性能が変わらない、全ての矢が均質で同じように引いた時に、同じように飛ぶ一様性を持つ、という観点から、やはりイーストン製のジュラルミン矢が最も適している、という判断になりました。鳥の羽はやはり雨天時に性能が失われてしまう為、アーチェリーで使用されているプラスチック素材に変更することにしました。

堅帽子

柔帽子

ゆがけについては、的中時の矢所の集まりを主眼に置いた時のリスク、及び耐候性の観点から、消去法で柔帽子のゆがけを使用する事になりました。

堅帽子のゆがけは、角見を利かせる弓手の働きにより、弦枕の溝にガッチリとかかった弦がはずれ矢が飛ぶという、堂射で生まれ現代の弓道まで続く弓具です。宮田純治は、近的や60mの遠的の大的を狙う弓道の大会においてはそこまで意識する必要がありませんでしたが、本大会においては、時には雨天・強風の中、70m、90mの的の中心を狙う競技においては、弦枕から弦が外れた際、弦が堅い帽子にわずかでも触れてしまった時には、矢の方向性が大きく変わってしまう事がわかりました。

堅帽子のゆがけは、ほんの少しのミスでも90mの遠距離弓射では致命傷となってしまう状況で、多数の矢数を射通し矢所を集めるのが難しい事、また雨に濡れてしまうと、堅帽子のゆがけが機能しなくなってしまう事から、消去法で柔帽子のゆがけを選択しました。これも、鹿革で作られた柔帽子のゆがけは、雨天ではぬるぬるになってしまい、ギリ粉もきかず、満足するものを得ることができないまま本選に臨むことになりました。

一方で弓道の視点からは、柔帽子のゆがけによるWorld Archery Championshipsへの参加が、「堂射で生まれた強弓で非常な矢数をかけるための堅帽子の弽は、的中の観点からはそれを阻害するリスクを内包しながらも、なぜ近的を中心とした現代の弓道においても使われ続けてきたのか」という、宮田純治が感じていた疑問に、自分なりにその解釈をするきっかけとなりましたので、それは後日説明致します。

麻弦 (1匁8分[約6.8g]~2匁5分[9.4g])

化学繊維の弦

当時、化学繊維の弦はアーチェリーでは普及していたものの弓道においては麻弦が主流の時代で、弓道用としてナイロン/ダクロンの繊維で自作しました。今存在するような硬質なものではないにせよ、麻弦と比べるとだいぶ切れにくく、それぞれの性能の差を確認しました。

弦については、耐久性についてはやはり化学繊維の弦が優れていましたが、柔らかい繊維を多数束ねて作る化学繊維の弦に比べ、麻弦は切れやすい性質がありながらも適度な硬質さにより矢勢がでて、伝統素材の麻弦による射の冴えを逆に再確認した結果となりました。弓の項目で説明した、「弦が切れた時の竹弓の若返りの問題」については、グラスファイバーFRP製の弓を使用することで解決することができ、麻弦は本選でも使用しました。

その他弓道には存在しない弓具として、30m、50m、70m、90mそれぞれで発射角が異なる為、一定の角度で引くためのサイトも手作りで和弓に装着できるものを自作しました。